第44回「楕円曲線の不思議」2011年2月5日(土)
【伊藤 哲史 先生(京都大学大学院理学研究科 准教授)】
 方程式 y2=x3+ax+b(a,bは4a3+27b2≠0をみたす有理数)で定義された曲線を楕円曲線といいます。
 楕円曲線の有理点(座標が有理数の点)は、整数論における重要な研究対象です。フェルマー以来多くの数学者により深く研究されてきましたが、まだまだ未解決の問題も沢山あります。
y2=x3-xの有理点は(0,0),(1,0),(-1,0)の3個のみですが
y2=x3-4 には(5,11),(106/9,1090/27),(785/484,5497/10648),・・・など無限個の有理点が存在します。この2つの楕円曲線は、一体何が違うのでしょうか?もっと一般の楕円曲線では、どういうことが成り立つのでしょうか?
 この講座では、具体例の計算を通して、楕円曲線の不思議な世界を紹介したいと思います。また、数論幾何の最近の進展や、この分野の未解決問題にも触れたいと思います。ふるってご参加ください。

第43回「どこを問題にして、違いを表す数値を導き出すか」2010年11月13日(土)
【長田 まりゑ 先生(大阪教育大学 名誉教授)】
 ここでは、「作用素環論」と呼ばれる、比較的新しい分野で、基本的な役割を果たす幾つかの数学用語・概念で、日常生活でのものと接点を持つ物を中心に、話を展開する。背景にある考え方は、以下のようなものである。:
 抽象的な議論を発展させる場合、新しく定義した概念を満たす対象の、「存在」を示す事が、要求される。
その対象を、数学的に作り出した時、実際に、新しいものだ(既知のものとは、”違う”)ということを示すためには、どうしたら、いいか。
特性を表す数値を与えて、数値が異なるから、”違う”と結論ずける方法が、最もスマートだと思われるだろう。
 この話の過程で、二つのものが、”同じ”とは、どういうことかを、参加者の皆さんと一緒に、考えていきたい。

第42回「複素数を見よう」2010年7月10日(土)
【上田 哲生 先生(京都大学大学院理学研究科教授)】
 私たちになじみ深い多項式や三角関数・指数関数も、複素数の範囲にまで広げて考えると、思いがけない新しい側面を持っていることに気付きます。複素関数の中にはいろいろな面白い曲線がひそんでいます。また簡単な2次関数を繰り返し合成することで、フラクタルとよばれる複雑な性質をもった図形を作り出すこともできます。簡単なコンピュータプログラムをつくりながら、このような複素関数の世界を見ていきましょう。

第41回「複素数で幾何学」2010年5月29日(土)
【宮地 秀樹 先生(大阪大学大学院理学研究科准教授)】
 複素数とは、2つの実数a,bおよび虚数単位と呼ばれる二乗すると-1になる「記号」iを用いて、a+biの形で書かれる数字のことである。
 複素数には四則演算(加減乗除)が定義されている。一方、複素数は2つの実数で表されるので、その全体は自然に平面と同一視される。
 この講演では、はじめに複素数の演算の幾何学的意味を説明する。そして演算の幾何学的意味を用いて、平面幾何における Morley の定理を証明する。

第40回「群と幾何学」2010年2月6日(土)
【松木 敏彦 先生(京都大学大学院理学研究科教授)】
 平面上の合同変換に関する幾何学は(平面上の)ユークリッド幾何学と呼ばれます。これが中学校・高等学校で学ぶ初等幾何学です。球面上でも同様のことができて、これは球面幾何学と呼ばれます。球面上では直線に相当するものとして測地線(=大円:球の中心を含む平面による切り口)を考えます。球面上の三角形の内角の和は180度より大きくなります。19世紀初めにロバチェフスキーとボリヤイは三角形の内角の和が180度より小さくなる幾何学を発見しました。この幾何学ではユークリッドの平行線公理は成り立たず、一点PとPを通らない直線Lが与えられたとき、Pを通りLに交わらない直線が多数存在します。
 本公演では、合同変換群を具体的に求めることによって、ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学について考察してみたいと思います。

第39回「数える幾何の喜び--H.シューベルトの考えたこと--」2009年11月14日(土)
【池田 岳 先生(岡山理科大学理学部准教授)】
 私の講座では、図形を数える問題を考えます。例えば2点を通る直線は1本ですね。空間に2枚の平面があったとして、それらにともに含まれる直線はというと、答えはやはり1本です。少し(かなり?)難しいのは次のような問題です。
 「空間に4本の直線があるとする。それらのすべてと交わる直線は何本あるか?」
 シューベルトという19世紀の数学者が、こういう種類の問題を解く方法を開発して、たくさんの問題を解きました。その考え方がとても面白くて、21世紀のいまでも興味を持って研究している人がいます。私はそのひとりです。パズルみたいな計算みたいなことをするうちに、高次元の図形どうしの絡まり合いがわかって、数が求められる。そういう雰囲気をお伝えできればと思っています。

第38回「情報を守る技術--暗号の話--」2009年10月24日(土)
【上田 勝 先生(奈良女子大学理学部教授)】
 携帯電話やインターネットなどの情報通信が身近になり、また電子マネーのしようなども見慣れた風景となりつつあります。これらに伴い悪意のある第三者からプライバシーや個人情報を守る技術である「暗号」がたいへん重要になってきています。
 今回の講演では、この「暗号」について歴史的な流れに沿いつつ解説していきます。具体的には古典的な暗号から現代のRSA暗号まで、それらの仕組みとそれにまつわる数学、特に初等整数論との関わりを解説します。時間が許せば、ゼロ知識認証などのトピックや最新の量子コンピュータとの関連についても触れてみたいと思います。

第37回「パスカル的三角形とヨセフ問題ー高校生の発見した数学の定理」2009年8月1日(土)
【宮寺 良平 先生(関西学院高等部 教諭)】
関西学院高等部では15年以上にわたって高校生による数学研究が行われ、多くの定理や公式が発見され、Fibonacci Quarterly Visual Mathematics,Mathematical Gazetteなどの数学雑誌に掲載されてきました。また最近では高校生の科学コンテストにも参加するようになり、多くの賞を得ています。高校生による数学研究というと、特別なことのように思われますが、良い機会があれば公式を発見できる高校生は日本中にたくさんいると思います。
 今回は高校生の発見の中で、パスカル的三角形(パスカルの三角形に似た性質をもつ分数による三角形)、フィボナッチ的数列(フィボナッチ数列に似た数列)、ヨセフス問題のパリティ則と自己相似性、新しい組み合わせゲーム(不等式による制限のついたもの)について紹介します。
 そして、講演の中で参加者のアイディアを出してもらって、実際の研究を体験してもらうことを予定しています。

第36回「ドーナツの形はどれだけある?」2009年1月31日(土)
【松崎 克彦先生(岡山大学理学部教授)】
「もの」の形全体の集合を考え、その集合にパラメータを与えた空間を一般にモジュライ空間という。このような空間は数学のあらゆる分野で研究される基本的な対象であるが、まずその定義のためには、どのような形を等しいとみなすかという設定から始めなければならない。表題の「ドーナツ」とは、数学的にはトーラスと呼ばれるものであり、トポロジーの立場ではどのトーラスにも区別はないが(従って形の集合は1点からなるが)、ここではより細かい分類が可能になる複素構造というものを通して形の集合を考えていくことにする。
 簡単のために、トーラスはユークリッド平面の平行四辺形の対辺の貼り合わせで得られるものとし、平行四辺形の形を与えるパラメータを上半平面に考える。しかし、異なる平行四辺形から同じ形のトーラスが得られる場合がある。この同一視を与えるものが楕円モジュラー変換であり、トーラスのモジュライ空間は結局、上半平面を楕円モジュラー群の作用で同一視した空間であるととらえることができる。
 ガウスによって描かれた有名な基本領域の図を紹介し、モジュライ空間の点とトーラスの形の間の対応を観察することで具体的なイメージを与えたい。

第35回「最短の柵で囲まれた最大の牧場」2008年11月8日(土)
【ラスマン・ウェイン先生(神戸大学理学部 准教授)】
題名の通りの問題を解説します。微分積分学を習っていない学年には深い技術を使わず、初等的な証明を紹介します。習っている学年には、その技術を使ったもっと格好のいい証明をあげます。この問題に関連する特別な曲線と曲面と、最近Perelman(ペレルマン)氏によって解決されたPoincare(ポアンカレ)予想についてもコメントをします。

第34回「整数論への入り口〜ペル方程式の話を中心に」2008年10月4日
【青木 美穂先生(岡山理科大学理学部 講師)】
「61脚のテーブルがあり、それぞれにリンゴが同じ大きさの正方形に並べてあります。一匹の猿がある1脚のテーブルにリンゴを1個追加しました。すべてのリンゴを集めたら、大きな正方形ができました。リンゴはいくつあるでしょう?」
 この問題は、方程式の整数解を求めることに帰着されます。この形の方程式はオイラーによりペル方程式と名づけられていて、無限個の整数解を持つことが知られています。
 講演では、ペル方程式の解法とその奥にある整数論の話題についてお話したいと思います。  ちなみに、上のリンゴの問題の一番小さい解は、3119882982860264401個です。

第33回「ディジタル機器の数学−誤り訂正符号の話−」2008年5月31日
【知念 宏司先生(近畿大学理工学部 准教授)】
携帯電話、コンピュータ、CDプレーヤーなど、身の回りには数多くのディジタル機器があります。これらのディジタル機器がうまく動いてくれるのは「誤り訂正符号」というものが働いているおかげです。これは情報伝達途中に外部からの雑音の影響で本来の情報が書き替わってしまったときに、元の情報をきちんと復元しようとする機構、特にその数学的理論です。そこで活躍する数学はベクトルや行列の高度な理論ですが、これらは高校数学でもその初歩を学ぶものです。こうした数学がこんなに身近なところで役に立っているのは興味深いことです。また「1+1=0」という不思議な計算法則も重要な役割を果たします。

第32回「オイラーの数学−分割数を中心に−」2008年2月11日
【山田 裕史先生(岡山大学理学部 教授)】
 2007年は数学者オイラーの生誕300年でした。これを記念して本講座でもオイラーについてちょっとお喋りをします。もちろんオイラーの業績は多岐にわたりますが、ここでは「分割数」というものについて少し解説をします。自然数を自然数の和として書くことを分割とよびます。たとえば、4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1 なので自然数4は5つの分割をもちます。これを p(4)=5 とあらわします。分割数の個数 p(n) についてオイラーが何をしたか、こんな話をしたいと思っています。

第31回「和算−割り算の九九から広がった日本の数学−」2007年12月15日
【菅原 邦雄先生(大阪教育大学教育学部 教授)】
 掛け算の九九は古くから知られていますが、15世紀の中ごろに中国から伝わったそろばんの計算では、割り算の九九(八算:はっさん)が使われました。また、来年は和算家(数学者)として有名な関孝和の没後300年にあたり、各種の記念行事が予定されます。
 この講座では、江戸時代の数学書をもとに、八算によるそろばん計算術や関孝和の天竄術(てんざんじゅつ:縦書きの文字式)等を紹介して、日本数学のルーツを探ります。
 あわせて、中国・日本・ロシアのそろばんをはじめとする計算用具を紹介します。

第30回「三平方の定理で長さを調べよう」2007年9月29日
【北原 和明先生(関西学院大学理工学部 教授)】
 三平方の定理は中学の時に学んでいます。今でもこの定理を使って2点間の距離を求める事は、よくやっていると思います。今回はこの定理を使って、「直方体の定められた頂点から直方体の表面上の点との最短距離(距離は直方体の表面に沿って考える)がもっとも大きくなる点はどこか」という問題などを考えてみたいと思います。新たな数学の紹介ではありませんが、問題の解にたどり着く過程を皆さんと楽しめればと思います。

第29回「フラクタルの数学」2007年4月28日
【日野 正訓先生(京都大学大学院情報学研究科 助教授)】
フラクタルとは、図形の一部分と全体が同じ形(相似)になっている少し不思議な図形たちのことです。自然界や数学の世界では様々なフラクタルを見出すことができます。この講演では、単純な規則で複雑なフラクタルが造られる様子をお見せしながら、フラクタルに関する数学理論の一端を紹介します。

第28回「無理数を考える」2007年2月10日
【畑 政義先生(京都大学大学院理学研究科 助教授)】
 実数は有理数と無理数から成り立っています。無理数は「無理」というわけではなくて、黄金比とか円周率とか、われわれの身近にもいろいろと潜んでいるのです。わかっているつもりでも、よくわからないところもある無理数にまつわる、いろんな話題を取り上げようと思います。

第27回「計算の歴史からたどる数と確率」2006年11月25日
【作間 誠先生(大阪大学 理学部助教授)】
 世の中にある整数の最上位桁が1である確率は他の数字である確率より高いといわれている。Benfordの法則と呼ばれるものがそれである。
 この講義では電子計算機出現以前の計算の歴史をみながら、この法則の発見の経緯をたどり、さらに確率統計の様々な立場から、この法則の成立する理由を考えることを試みる。

第26回「結び目理論と非ユークリッド幾何学」2006年9月30日
【作間 誠先生(大阪大学 理学部助教授)】
 結び目という身近な対象は、数学の研究対象になっており、結び目理論という分野を形成しています。
 一方、非ユークリッド幾何学はユークリッド幾何の平行線公理を証明しようという千年以上に渡る努力の末、今から約180年ほど前に発見された幾何です。
 今から約30年近く前に、この結び目理論と非ユークリッド幾何学は切っても切れない縁で結ばれていることが発見され、この結びつきは深くて美しい様々な美しい様々な数学を生み出しました。
 この講演では、この思いがけない結びつきを様々な美しい具体例を通して解説したいと思います。

第25回「有限の数の世界」2006年7月22日
【難波 完爾先生(東京大学 名誉教授)】
 今回の話は、有限個の元で、有理数や実数、そして複素数のような加減乗除の可能な世界、いわゆる有限体(finite field)をめぐる話です。今日では、通信やコンパクトディスクなどの記憶装置や家電製品の制御などと関連して、趣味や日常の世界まで、このような数の世界は(通常は意識していませんが)広がっていきます。有限体やそれをめぐる算法(operations)の世界は、ガウス、アーベル、ガロア、ポアンカレ・・・など多くの歴史上の数学者に関係した物語をもち、現在の最先端の話題でもあります。話は有限体の例から始めて、楕円曲線、つまり2変数の3次元関数f(x, y)で決まる群(group)の世界へと案内致します。有限体の上では、これも有限個の調和をもった世界なのです。・・・できれば、一部歴史なのですが、・・・佐藤のsin2-予想という話にもふれてみたいと思います。

第24回「数の世界はどこまで広がっているか 」2006年2月11日
【中島 惇先生(岡山大学環境理工学部 教授)】
私たちは日常の生活の中で整数、分数を使っています。またいろいろなものを造るときには、2の平方根や円周率πのような実数も利用しています。もう少し数学に足を踏み入れると複素数が出てきます。複素数は平面上のベクトルとも関係した重要な数で、数字のいろいろなところに出てきます。皆さんが携帯電話を利用できるのは現代の科学技術のおかげですが、その基礎分野では数学はとても重要な役割を果たしています。
 それでは数学の立場で考えて、複素数よりもっと広い数の世界はあるのでしょうか。
 今回の話では、はじめに“複素数と似たような便利な数はあるのだろうか”、また“複素数より広い数の世界はどうなっているのだろうか”の2つのことについて考えてみます。後半の話題は
(2つの整数の平方の和)×(2つの整数の平方の和)=2つの整数の平方の和
を発展させたものとつながっています。

第23回「セントピータースブルグのパラドックスに関する確率論 」2005年10月22日
【樋口 保成先生(神戸大学理学部 教授)】
賭けにまつわる確率論の問題はいろいろ知られていますが、その中でもこの問題はなかなか納得が行かない話として有名です。確率論だけでなく経済の方では効用関数という話とつながって人間の認識の問題とも理解されているようです。ここでは確率論の枠の中で、何が説明できるかを考えてみようと思います。はじめに、期待値の概念を紹介して、どこまでのことが知られているか、考えられるかを紹介します。この問題自身はすぐに説明できることなのでここでは説明を控えておきます。一つの結論は「無限」が登場すると我々の直感はあてにはならないということなのですが、それだけでは満足できない人のための講義にしたいと思います。

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